明治時代にはすでに傾聴本があった
今回は前回内容に少し補足するような記事になります。
前回、「日本ではカウンセリング分野を除くと、1960年代のビジネスの分野から傾聴という言葉が使われ始めた」という内容をご紹介しましたが、それより以前には、
・1905年(明治38年)「催眠術活法:実験立案(鈴木丈次郎 著. 吐鳳堂)」
・1906年(明治39年)「応対談話法(蘆川忠雄 著. 実業之日本社)」
上記のような書籍も「傾聴」というキーワードでヒットします(国立国会図書館サーチ)。
催眠術活法(1905)は、医師である鈴木丈次郎氏による催眠治療の指南書となっており、その本文中、患者を催眠状態へ誘導する方法のひとつとして「『懐中時計を両耳に貼して傾聴せしむる法』又は『術者自身が深呼吸をして被術者にそれを傾聴せしむる法』などは至極便利な形式である(本文より抜粋)』とあります。ここでの「傾聴」という言葉は、医師―患者間での「聴き方の技術」といった意味で使われているわけではありません。ただ、傾聴本来の分野である心の治療の領域でこの言葉が使われているところに目が留まります。
一方、応対談話法(1906)は、まさに傾聴ズバリの内容です。明治時代に出版された今でいう社交テクニックをまとめた本であり、そのなかには「西諺にも『最良の談話家は最良の傾聴者なり(本文より抜粋)』」という一文があります。いわゆる「話し上手は聴き上手」といった現代にも通じる内容で、相手と良い関係を築くには一方的に話すのではなく、相手の話を熱心に聴く必要があるということ。さらに「熱心に聴くとはどういうことか」について、あいづちの大切さや心構えなどが解説されています。
どちらの書物も現在の傾聴にどこかで通底する内容であり興味深いのですが、一方で、上記はいずれもロジャーズが提唱した傾聴(1940年代)よりも前の時代の出版物となりますので前回のブログでは外すこととしました。
日本に「傾聴」が入ってきてから現在までの間にどのような歴史を辿ってきたのか。文献検索では検索しきれない範囲のものも、実際にはたくさんあると思います。また、書籍や記事に残っていないだけで、ビジネスの分野よりも前に意外な分野で傾聴という言葉が流行っていた・・・なんてこともあるのかもしれません。
この辺りはこれからも少しずつ調査をしながら、傾聴の歴史を深めていきたいと考えています。
※画像:国会図書館デジタルコレクションより引用
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